Sputnik

Jast a Traveler

高額紙幣廃止後のインドの混乱の中で、旅行者が辿ったことの顛末。

1-Gx9PefuCOYrSzzb4zxr32w
新紙幣2000ルピー札

 

インドへ出発する少し前、気になるニュースが目に飛び込んできました。

 

「4時間後に紙幣が使えなくなります」インド首相が突然発表 なぜ?

インドのモディ首相は11月8日午後8時(現地時間)にテレビで演説し、現在流通している高額紙幣を、4時間後の9日午前0時で廃止すると突如発表した。

 

 

 

「4時間後に紙幣が使えなくなります」

えっ?!! インドの高額紙幣である1000ルピー(約1700円)と、500ルピー(約850円)が4時間後に使えなくなりますよ、とモディ首相が突然発表したのです。(2016年11月時点 : 1ルピー = 約1.7円)

 

理由はブラックマネー撲滅の他に、脱税対策(インドはまだまだ現金社会で、タンス預金をする人も多いのだそうです)などの問題を一掃するためでした。 銀行も閉まっているとのことですし、インドの人達の生活はこれからどうなるんだろうと心配になりました。

 

「きっと大混乱なんだろうな。」

 

2日後には、タンス預金をしていた女性が悲観のあまり自殺をしたとのニュースも流れました。 ただ外国人は空港で高額紙幣を両替してもらえるという話も聞いたので、まあどうにかなるかな、空港でどうにかしてもらおう。と楽観視していました。

 

「変に現金を多く持って歩くのも嫌だから日本円は持ってかなくていいかな、この前もクレジットカードしか使わなかったしなあ。」 と、まるで人ごとのようにのんきにインドへと出発しました。

 

 

空港のATMでクレジットカードが使えない

夜遅くに空港に着くと、取りあえずATMを探しました。

 

「あ、並んでない、ラッキー」

 

しかしカードを入れて、画面は順調に進むのですが、最後にお金が出て来ません。 振り返ると私の後ろは大行列になっていました。

 

私が操作しているのを見て、使えると思ったのでしょう。 少し多めに下ろそうとしたから引き出せなかったのかなと思い、後ろの人に順番を譲って、新しく発行された紙幣と同じ額の2000ルピーで引き出せるか試してもらいました。

 

が、やっぱり下ろせず。。 いつの間にか大行列だった人々はどこかへいなくなってしまいました。 他のATMをまわったけれど、どこもダメなので、仕方がないから両替所に並んでみました。 といっても現金はほとんど持っていなかったので、小額しか代えてもらえないだろうし、何しろものすごい人だかりでした。

 

あきらめの早い私は、夜中だし待つのも大変だから、ゲストハウスに行ってから考えることにして、さっさと空港を後にしました。

 

 

日本円を持って来なかったことを後悔

翌朝どこかでお金を引き出さないとまずいと思い外へ出ようとすると、オーナーさんに声をかけられました。

 

次の場所へ行く移動手段の手配などの話をしていると、

 

「両替はどうしたの?」

 

という話になり

 

「これからATMに行くところなんです」

 

と答えると、

 

「ATMは閉まってるよ」

  

 

円を持っているなら替えてくれると言ってくれたのですが、円はほとんど持っていなかったので、本当に少しだけしか両替することが出来ません。 同じ日に空港に着いた日本人の方に話を聞くと、日本円を多く持って来て空港で3万円を両替してもらい、心配なのでゲストハウスでも2万円を両替してもらったとのことでした。

 

「さてどうしよう」

 

と思っていると、オーナーさんはさらに親切に 「少し手数料はかかるけど、クレジットカードを使って決済した分をインドルピーで渡しましょう。」 と言ってくれました。

 

翌日現金をどこからか調達してくださって、両替することが出来たのですが、高額紙幣がなくなり全部が100ルピーでの交換だったので、少額を替えてもらったのに、大量の札束がやって来て、お金持ちになったような気分になりました。

 

この時私は、「次の町でお金が尽く頃には、どこかのATMでお金を下ろせるようになるだろう」とこれまた楽観的に考えていました。オーナーさんにも同じように言われて安心していたのもあります。

 

 

 

PC100955
昼間だけでなく、朝の3時に並んでいる人も見かけました。
 
 
 

年内は混乱は収まらないだろう

しばらく他の町で過ごすうちにお金が尽きそうになったので、そろそろATMも使えるようになっただろうと見に行ってみると、これまた長蛇の列。

 

ってことは並べばお金を下ろせるってことなのかな?ということで最後尾の人に聞いてみると、

 

「入金だけしか出来ないよ。」

 

しかもそこのATMの入り口には鎖がしてあって、怖いおじさんが鎖を外したり閉めたりしながら、大勢がなだれ込まないようにと1人ずつ入れ替えをしていました。

 

どこのATMへ行っても長蛇の列か閉まっているかのどちらかで、これはまずいなと、ようやく私の中にも緊張感が漂い始めました。 少なくとも年内はこの混乱は収まらないだろうとの見方のようでした。

 

 

ウエスタンユニオンを思い出す

そんな時、ウエスタンユニオンの存在を思い出しました。 「そうだ、ウエスタンユニオンなら日本から送金すれば数分でルピーで受け取れるんだった!」 1年位前に、用があってインドの人に送金したことを思い出したんです。

 

人にお金を送ってもらうのはとても気が引けたので、最初はなかなか頼めずにいました。けれどそんなことも言っていられなくなったので、家族に連絡をしました。

 

送ってもらえるとのことだったので、その前にウエスタンユニオンの取扱店に行って、受け取れるかどうか確認しに行ってみたのですが、残念なことに現金自体がないのだから受け取りは出来ないと。

 

そして明日の昼に来てと毎日言われ続け、いつになっても受け取ることは出来ません。 まるで無人島で、なんの価値もない現金を大量に持った漂流者のような気分でした。

 

日本の口座にいくらお金があったとしても、ルピーを持っていなければ一文無しと同じです。

 

「とうとうインドでホームレスデビューか…..それなら残りのお金で次の町に行ってしまおう!」

 

 

 

PC030462
夜に光るゴールデンテンプル
 

シーク教の聖地に救われる

次に行く町は元々計画していた予定の場所だったのですが、そこはシーク教の寺院がある町で、巡礼者のためにお布施だけで泊めてくれる宿がありました。

 

食事も同じように、お布施だけで食べさせてもらえるとてもありがたい寺院で、私はしばらくその町でスィク教の方達の懐の広さに甘えさせてもらうことにしたのです。

 

宗教的な精神世界は、未熟な私にはよく理解出来ないのですが、その時の私はまるでこのシーク教の聖地に導かれた気さえしていました。 どうしても行きたいと思っていた訳ではなく、何となく計画していた町のひとつが、絶妙なタイミングでお金に困った私を助けてくれたからです。

 

その町に着く少し前に、いつ受け取れるかは分からないけれど、ウエスタンユニオンを経由して日本から送金をしてもらっていました。 巡礼宿に着いてすぐに、取次店に足を運んだところ、とても親切な店の方が、緊急事態だからといろいろ交渉して下さって、現金に替えて来てくれたのです。

 

あの混乱の中で、どうやって交渉してくれたのか私にはまったく分かりませんでしたが、シーク教の人達の優しさと正義感の強さにとても感動し、その時はただただ感謝するしかありませんでした。

 

 

全部自分の責任です

とにかく無事にホームレスにならずに帰国出来たのは、シーク教の方達を含め、インドに着いて最初に泊まった宿のオーナーや、情報を提供してくれたインド人の友人、日本で心配してくれた人達など、いろんな人が関わってくれたおかげです。

 

インドの高額紙幣廃止のニュースを把握していながらも、何も対策も立てずに分かったような顔をして入国した私が一番いけなかったと思います。そのおかげでいろんな方に必要のない迷惑をかけてしまいました。

 

他の日本人旅行者の方にもお会いして話を聞きましたが、長期旅行者の方は多額の高額ルピー札を持っていたために、両替にとても苦労したようでした。

 

 

E18C2724-F982-4701-BF2A-B2349A5B7382
ターバンがシーク教徒のシンボルです。
 
 

今回の改革が効果をもたらすと信じて

インドの人達はこの大きな問題に翻弄されつつも、理由はよく分かりませんが比較的冷静で落ち着いた印象を受けました。

 

日本のような小さな国でさえ、ひとつにまとめるのはとても大変なことだと思います。モディ首相は日本の約10倍の人口を相手にこんな大きな改革を実行したのですから、たとえいろいろな意見や批判があったとしても、彼の信念の強さとリーダーとしての資質は本物だと、私のようなただの個人旅行者でさえ尊敬の念を抱きます。

 

今回のモディ首相の歴史に残るだろうこの大きな決断が、たとえ任期中には効を奏さず一時的に失速するようなことがあったとしても、長期的に見て未来のインド国民の貧富の差が縮まり、また国民全体の生活が今よりも安定したとしたならば、これから生まれる子供達の世代がきっと彼を評価するでしょう。

 

今回のインドでのこの問題についてはとても興味があるので、また何か書けたらいいなと思います。