以前、カルテ開示をした時の話を書かせていただきました。
今まで私は職業柄、たくさんのカルテを見てきました。というか読み込んできました。
自分の勤務先は他施設よりもシステムが遅れていたため、電子カルテが導入される前に私は退職をしていますので、古くからある分厚いカルテの方が私にはなじみがあります。 一冊の分厚いカルテには一人一人の物語があります。 まるで人生の縮図のようです。
貴重な患者情報
医師記録や看護記録、検査データに紹介状はもちろん問診票やアナムネなど、一人の患者さんのあらゆる情報が一冊のカルテの中に凝縮されています。
入院されたことがある方なら分かるかと思いますが、入院をすると何度も同じ話をさせられる場面に遭遇することがあります。 既往歴から生活歴、家族構成などなど、かなり細かいことまで質問されて、なんでそんなことまで聞くの?と思うような話したくないプライベートな情報まで伝えなければならないこともあるかも知れません。
しかしそういった情報を加味した上で従事者側は治療や看護を行っていく為、それらは大変重要な役割を果たします。
自分のことは何も知らない
一方、患者側は本人の情報を細かく説明したにも関わらず、反対に自分について書かれた客観的な情報を知る機会はあまり多くはないと思います。 医師に呼ばれて家族と一緒に今の状況と今後の治療方針を告げられる事が、多くても数回ある程度だと思います。
私は今まで数えられない程たくさんの人のカルテを見てきましたが、自分自身のカルテは自分の病院で薬を出してもらった際に見る程度でした。
今患者の立場になって思います。
「どうして自分の情報を自分自身の目で見る事が出来ないのだろう。」
治療にあたる側の人間は私の情報を見放題なのに、どうして自分の情報を自分が見られないのだろうか。たくさんのカルテを見てきたせいで、余計に自分はどんな風に書かれているのだろうか気になって仕方なかったのです。
いちから伝える煩わしさ
他に思う事もあります。 患者は転院の際、紹介状を持たされます。その内容は大抵、来院してからこれまでの経過と転院に至った理由、そして最後に処方されていた薬の内容などが書かれています。
1枚か2枚程度のものです。 患者の情報はそれだけです。あとは本人から初診時に聴取します。 聴取と言っても向こうが知りたい情報について、自分の記憶と前医に言われた言葉をどうにかつなぎ合わせて話す程度です。家族が説明するとしても、ほぼ同じです。
そしてそれから診察の度に、そういえば以前にもこんな症状があったとか、そう言えばこんな風に先生に言われたとまた1から話さなければならなくなります。 どうしてこんなに病院というところは横の繋がりが乏しいのでしょう。
希薄なつながり
同じ院内であっても医師間の繋がりは希薄です。
たとえ院外で一緒にゴルフや飲みのに出かける機会があったとしても、お互いの仕事の細かい内容には決して立ち入りません。 相手のプライドを傷つけ気分を害されることを恐れるからです。
特に相手が自分よりも立場が上で、その相手に面と向かって意見を言えば、自分が居づらくなる状況の時には、たとえ自分の見立てと真逆であっても黙って言葉を飲み込むことでしょう。
狭い世界ですから仕方がない事かも知れません。 しかしその結果、一番ダメージを被るのは患者さんです。
医師同士の情報の共有がうまくいっていれば患者が四苦八苦して説明する手間が省けます。 どのみち精神疾患のある私達患者の言うことは、話半分にしか聞いてはもらえません。
そんないろいろな思いが入り交じったことから、私はカルテ開示を請求することを当時決めたのでした。
戸惑う開示側
カルテ開示を請求するのは、私は自分の情報を知る権利があるのですごく良い制度だと思います。 単純に自分のこれまでの状況を知りたいだけで、何の悪意もありません。 何らかの不満があって、裁判を起こすぞー!なんて厄介なことを考えているわけでもありません。
けれど実際に請求してみると、開示する側はとてもネガティブなイメージを持っているように見えました。 忙しそうにしていた受付のお姉さんは急に態度が変わるし、担当者には別室に連れていかれるし、別にこっちは怒っているクレーマーでもなんでもないのに、禁句を公言してみんなが固まったような状態になってしまいました。
この患者はなにか悪意を持っているかも知れないと、言葉に気をつけて話をしているようにも見えました。 病院によって違うのだと思いますが、まだまだ時代が追いついていないんだなあと感じずにはいられない出来事でした。
貴重な自分の情報
私はこれからはもっと患者自身が自分の情報を知るべきと思っています。横の繋がりの乏しい現在の医療体制では、情報の伝達がうまく機能していないからです。 そして自分の情報をより正確に次の医師に繋いでいけるようにするための手段でもあるからです。
私の場合は前医のところに長く通っていて、双極性障害の診断もついたのもその病院だったので、特に必要性を感じました。
次の医師にそのカルテを見てもらうかどうかは自分自身で決めればいいですし、知られたくない情報は話さなければいいだけです。 最後の受診から5年を過ぎればカルテ自体も保管されない可能性もあるし、もう請求する事すら出来なくなってしまいます。
さいごに
私達はこれからほぼ死ぬまで病院通いが続きます。 いつ、長く通った病院を去ることになるか分かりません。 自分の情報を永久に知る事が出来なくなる前に開示請求を行う事は、決して間違ったことではないと私は思います。
自分自身の病気の治療に前向きに参加する姿勢は、自分にとっても治療をする者にとっても、きっと大きなプラスになるはずです。
カルテ開示の方法を書いた前回の記事はこちら